【知床:世界遺産10年 海・山・人は今】毎日新聞が連載しています。
毎日新聞は、「知床国有林伐採問題」の頃から「ユネスコ世界遺産登録後」まで、地元に密着した取材をしながら、
日本や世界に情報発信を続けています。
今回の連載【知床:世界遺産10年 海・山・人は今】は、知床、世界遺産10年を総括する貴重なシリーズです。
山田泰雄氏が担当とある。山田さんとは旧知。取材に同行し、国有林伐採跡地に入った懐かしい思い出があります。再度、「知床の今」を通して、世界遺産の功罪を検証したいものです。
*******************************
知床:世界遺産10年 海・山・人は今 ⑤/ 保全と利用の間で 観光の方向性探る
/毎日新聞 2015年07月07日 北海道地方版
銀世界の中をスノーシュー(かんじき)を履いた参加者が一歩一歩進む。今年1〜3月の厳冬期に行われた知床五湖エコツアーの一コマ。雪原の下は凍結した湖面だ。夏場なら立つことのできない位置から望む知床連山に、感嘆の声があがった。
2005年に知床が世界自然遺産に登録されて以降、地元は観光客の大幅増に期待を寄せたが、実際に“効果”があったのは翌06年までの2年ほど。その後は減少傾向が続き、観光客入り込み数は05年の約249万人に対し、14年は約166万人にとどまった。知床斜里町観光協会は「航空機材の小型化などで、半数以上を占めていた団体ツアー客が減少したことが響いている」と分析する。
◇
そんな中、注目されるのがエコツアーだ。バスで名所を足早に回る従来型の団体観光とは異なり、個人や少人数のグループがガイドの解説を聞きながら、じっくり自然に触れる。世界遺産・知床の「保全と利用の両立」にふさわしいスタイルとして、現在は知床五湖やフレペの滝などで数々のツアーが催されている。
14年度は二つの新たなツアーが始まった。一つは冒頭の厳冬期知床五湖ツアー。もう一つは知床半島先端部の赤岩地区に動力船で上陸し、コンブ漁とその歴史などを学ぶツアーだ。いずれも3年間の試行を経て、今後本格化させるか検討する。
厳冬期五湖ツアーは、積雪のため通行止めとなっていた道道を除雪し、ガイドの車で行き来するもので、この冬は目標の700人を上回る747人が参加。冬季の観光メニューの切り札として可能性を示した。ところが、こうした取り組みに対し、地元の一部には異論もある。
斜里町立知床博物館の山中正実館長は「トレッキングやカヤックならいざ知らず、車や動力船で乗り付けるとは。今後さらに利用の拡大をとなれば、歯止めが利かなくなる」と批判。一方、知床ガイド協議会の岡崎義昭会長は「貴重な自然だからこそ実際に見てもらい、保護の必要性を理解してもらうことが大切だ。無制限に拡大するつもりはない」と反論。双方の溝は深く、「利用」の方向性をめぐり、今後も議論の火種はくすぶり続けそうだ。
◇
地元でも、今後観光客数が劇的に伸びるとは想定していないが、知床斜里町観光協会の新村武志事業部長は「目的を持って知床を訪れた人に、どれだけ満足して帰ってもらえるかが大事だ。今後は『量より質』を目指さなければならない」と主張。知床財団の増田泰事務局長は「事前講習を知床五湖以外でも義務化するなど、まだまだ工夫の余地はある」と、さらなる「知床ルール」の充実を訴える。貴重な遺産の価値を守りながら、どう利用を図っていくか。次の10年も知床の模索は続く。世界遺産として輝き続けるために−−。=おわり
× × ×
この連載は山田泰雄と本間浩昭が担当しました。
==============
■ことば
◇赤岩地区
知床岬近くの羅臼町側に位置する。大正時代からコンブ漁が盛んに行われ、最盛期の1970年には56軒の番屋が立ち並んだ。現在は2軒のみ。関係機関は84年の申し合わせで、観光目的での動力船による上陸を規制しており、今回のエコツアーには疑問の声もあがったが、「教育目的」として試行が認められた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
下部の「次のページ」をクリックしてください。
- 2015/07/07(火) 13:35:08|
- 素晴らしいお知らせ
-
-